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日本にもあった素晴らしい金貨

皆さんは日本の金貨と聞いて、なにを想像されるでしょうか?きっと多くの方は昭和から平成にかけて発行された、例えば「天皇在位〇〇年記念」といった記念コインや、サッカーのワールドカップやオリンピックを記念して発行された金貨を想像されるのではないでしょうか。

もちろんそのような現代記念コインも立派なコインではありますが、例えば資産価値という観点で見た場合、残念ながら金の地金以上の価値はありません。つまり金の塊(かたまり)をもっているのと同じです。

一方で我が国には、そのむかし国家の威信をかけて鋳造された、立派なクラシック・コインもあるのですよ。何をかくそう僕自身コイン収集を始める前(もう40年以上も前の遠いおはなしですが)、そのような金貨があるとは知りませんでした。

ではさっそくそのコインをお見せしましょう。

写真うつりが悪いですが表面は龍の絵です。欧米のコインは王様や皇帝など君主の肖像を描くことが多いのですが、日本の場合は違います。当時天皇の肖像を描こうという動きもあったそうなのですが、恐れ多い、不敬にあたるということで却下されたと聞きます。裏面は向かって左が月の絵、右に太陽を描いた双流の錦の御旗で、これも天皇の権威の象徴です。

発行は明治の4年、旧10円金貨(注)です。鋳造枚数は結構多くて約187万枚。直径は29ミリ、重量は約16.6グラム、世界的にみると中型の金貨に属します。実はこの上に旧20円金貨と言って、大型の金貨もあるのですが、そのお話しはいずれまたの機会にいしたましょう。

さてこの金貨、明治4年に制定された「貨幣条例」に基づいて発行された、我が国最初の金貨です。明治新政府が不平等条約の改正を意識し、欧米の列強に劣らぬコインを持ちたいとの気概を込めて作られた逸品と言ってよいでしょう。この年に1j=1円で為替の取引がスタートしたのですが、当時の1円は現在の貨幣価値で2万円程度に相当したのではないでしょうか。従ってこの10円金貨を現在の価値に換算すれば、一枚20万円あたりになるでしょう。

つまりこの金貨は現在の感覚でいえば20万円玉です。20万円ダマ・・・すごいですね、こんなのが小銭入れに入って入れば、気になって仕方ありません。が、その点はご心配には及びません。これらの金貨(同時に発行された1円、2円、5円、10円、20円を含め)は主に貿易決済用に用いられた貨幣で、一般庶民はなかなかお目にかかれないシロモノでした。庶民はといいますと、1銭や2銭といった銅貨(当時の1銭は今の200円ほど)をサイフに入れて使っていたわけです、ですからこの金貨を一生拝んだことがないといった庶民も多かったのではないでしょうか。

さてこの金貨たち、その後なんとも数奇な運命をたどることになります・・・

□昭和恐慌時の受難

この金貨の最初の受難は昭和恐慌時でした。1930年代初頭、我が国だけではなく、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなど世界的な大恐慌に陥りました、さらに各国が各様のタイミングで固定為替相場から変動為替相場へ移行したこともあって、為替相場は大きく動き、その結果我が国の金は大量に海外が流出するという現象が起きたわけです。最大の被害を受けたのは、昭和5年(西暦1930年)から昭和7年(同1932年)に発行された新5円金貨および新10円金貨で、例えば昭和5年に発行された新10円金貨などは、1100万枚以上鋳造されたにも関わらず、その大半は海外に流出し溶解されてしまいました。驚くべきことに残存枚数はわずか数枚と言われています。ちなみに昭和5年の新10円(注)の価格は、一枚600万円ほどです。

注)明治30年の貨幣制度改正によって、新たに発行された金貨です。サイズは旧10円の半分になり、デザインも随分と貧弱になってしまいました。上記昭和5年を除き、一般の年号は旧10円に比べ概ね5分の1程度にすぎません。

記録には残っていませんが、この旧10円金貨も相当な枚数が海外に流出し、溶かされてしまったのではないかと僕は考えております、前記のようにこの金貨の鋳造枚数は約187万枚ですから、本来なら同時代の欧米の金貨(注)に比べ、極めて大量に鋳造されたコインといってよいでしょう。

注)例えば同時代に発行されたフランスのナポレオンの100フラン金貨は、約10万枚鋳造されています。

□第二次世界大戦後、GHQによる接収

このコインの二度目の受難は、第二次世界大戦の直後にやってきました。戦時中行われた金属の供出により、民間に退蔵された貴金属は政府の手に渡ったわけですが、この金貨も例外ではありませんでした。昭和恐慌を乗り越えて生き残った僅かなコインたちも、政府によって回収されてしまったというわけです。

回収した金貨を政府がどのように使ったかは知りませんが、おそらくその一部(あるいは大半は)溶解され、海外との貿易決済のために使用されたのではないかと僕は思います。

政府保有の金貨のなかにも、幸運にも使用されず、そのままの形で終戦を迎えた金貨もありましたが、彼らにもまた悲劇が訪れることになります。終戦後米国の占領本部(GHQ)が東京に設置されるのですが、最初に行ったのは日本政府が所有していた資産の接収で、旧大蔵省の金庫に保管されていた金貨は、そのままGHQの手に渡ってしまうことになりました。

さらにこのお話しには続きがあります。

1951年に開かれたサンフランシスコ講和条約で日本の主権が認められ、GHQが管理していた金貨たちもまた、日本政府に返還されることになったのです。驚くべきことに、これらのラッキーな金貨は、財務省の金庫の中で半世紀以上の年月を過ごすことになります。

彼らが永い眠りから覚め、陽の光を浴びたのは2005年です。財務省もさすがにいつまでも地下の金庫で眠らせておくわけにもいかず、さらに昨今の財政厳しいおり、オークションを通して市中で売りさばこうというおはなしになったのでしょう。こうして旧10円だけで約1700枚、他に旧金貨、新金貨あわせて32,683枚という大量の金貨が市場に流出することになったわけです。

□その後の相場動向は

上記財務省の大量放出によって、この旧10円金貨も相場が崩れました。はっきりと覚えているわけではありませんが、それ以前は未使用状態のもので50-60万円ほどだったように記憶しております。13回におよぶオークションでしたが、回を重ねるごと徐々に相場帯が下がり、最後のオークション終了時点(2010年)では、未使用状態の素晴らしいコンディションのものが、40万円程度と概ね3割ほどの値崩れとなってしまいました。このようにコインの相場が大崩れした事例を僕は知りません・・・

ただし今から考えれば、あそこが買い場でした。

その後2010年から2012年あたりはほとんど相場の変動もなく、例えば2012年(わずか3年前!)でも素晴らしい未使用状態の旧10円が40万円の前半で十分手に入りました。が、そこから急反発、特に2013年と2014年の上昇には目をみはるものがありました。年に数回開催されるコインショーでは、毎回10万円単位で値札が架け替えられる状況で、昨年末時点には、未使用状態のもので80万円程度といったところまで来てしまいました。

ではこのコイン、現在の適正価格はいったいいかほどなのでしょうか。昨年までの勢いを継続し、今後も上昇するのでしょうか。

僕自身は現状の80万円程度が適正価格であり、昨年や一昨年のような急騰は終わったとみております。

僕自身はこのコインの残存枚数を5000枚ほど(財務省放出分を含め)だと考えておりますが、これは例えばイギリスのジョージ6世5ポンド金貨(1937年発行、鋳造枚数5000枚)に相当いたします、同コインの現在の相場はといいますとちょうど80万円ほどです。あるいは欧米の同時代の金貨との比較のなかでみても、まあ現状が妥当な水準ではないかと思うわけです。

従って目先の値上がりを期待して、このコインをお買いになることをお勧めいたしません。それでもこのコインの数奇な運命に触れてみたいという動機でお買いになるなら、財務省のケース入りコインをお買いになるとよろしいでしょう。長期で見れば、さらに「財務省放出コイン」というプレミアものっかり、きっとよい投資になるでしょう。

 






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