ホーム > 連続読みもの(抜粋版) > 2−5.商品相場の上昇を利用して資産を増やす(その3)
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■商品相場の上昇を利用して資産を増やす(その3)

一方で一口にコモディティといっても多種多様で、それぞれ実に異なった値動きを致します。例えば代表的なコモディティとして金(Gold)をみてみましょう。金は古くより貨幣として使用されてきたように、いまだに通貨としての性質を持ち続けています。特に2008年のリーマン・ショック以降は、他のコモディティにない特異な動きをみせました。

2007年7月〜2010年1月までのCRB指数の動き
(2007年7月〜2010年1月までのCRB指数の動き INO社 サイトより)

2007年11月〜2009年11月までのドル建て金相場の動き
(2007年11月〜2009年11月までのドル建て金相場の動き kitco サイトより)

上記はCRB指数とドル建ての金価格を表したものです。CRB指数はさまざまなコモディティ価格を指数化したもので、簡単に申し上げますとコモディティの平均点のようなものです、上記CRB指数のチャートをご覧頂いてお解りのように、コモディティ相場の前回のピークは2008年7月で、それ以降リーマン・ショックを挟んで急落し、2009年3月に底を打ってその後徐々に反転してゆきます。これに対して金の値動きをみますと、確かにリーマン・ショックで大きく値を下げてはいますが、それはごく限られた期間に過ぎず、2008年11月以降はむしろ急騰していることが解ります。これはいったい何を意味しているのでしょうか。先ほど申しましたように金は確かにコモディティの一つではありますが、今でも通貨としての一面を持っています。2008年、特にリーマン・ショック以降、世界の経済は大きく混乱し、長期短期にかかわらずあらゆるマネーがリスクを嫌って逃げ出しました、その逃避先として絶対的な価値を持つ通貨、即ち金が選好されたといえるでしょう。

よく卵を一つのカゴに盛るなといって分散投資の必要が説かれますね、例えば株に対して債券、さらには不動産やコモディティといったように。また同じ株でも地域を分散させたり、通貨を分散させることが重要だといわれます。確かに平時においては、そのようなことはとても大切なことなのですが、リーマン・ショックを通じ、私たちは現代ポートフォリオ理論に基づいた、このような分散投資も万能でないことをイヤというほど思い知らされました。例えば平時においては株と債券は異なった値動きをしやすいので、株と債券を一定量ずつ保有すると、価格変動リスク抑えつつリターンのみを取り出すことができる、これが現代ポートフォリオ理論の要諦だったたわけです。がどうでしょうか、前回のリーマン・ショック時に、この教義は完全に崩壊してしまいました。平時では逆方向に値動きするはずの資産が、みな同じ方向を向いて一斉に走り出してしまったわけでね、まさに相関係数(注)が1になることがあり得るわけです。

(注)2種類の金融資産の値動きの関連性を示す指標、相関係数は−1から+1の値をとり、+1に近づくほど似通った動きをすることを示す、逆に正反対の動きをする場合、この2資産の間の相関係数は−1となる。

私は現代ポートフォリオ理論には明らかに欠陥があると考えています、人間の心理は極端から極端に振れやすいもの、そもそも物事の生起確率は第一章で述べた正規分布になっておらず、実際はもっと左右に大きく展開した形状をしているのではないでしょうか。また先ほどの金融資産間の相関係数も怪しいものです、もちろん相関係数は過去の一定期間の実績から計算されていますので、それ自体は決してでっち上げなどではないのですが、先ほど申しましたように人間の心理は振れやすいもので、特に前回のリーマン・ショックのような外からの大きなショックに対しては、極めて動揺しやすい構造になっているのではないでしょうか。その結果、先進国の債券ですら一時的に大きく売られ、期待を裏切る結果になりました。特に証券会社に勧めにのって毎月分配型の外債ファンドなど、外貨建ての債券投信を大量に保有された方は、為替による損失も重なってショックを受けられたのではないでしょうか。

このようにリーマン・ショック時は、いままでの常識が通用しない出来事が、資産運用の世界で数多く起きたのですが、期待通りの動きを示した金融商品もあります。その一つが金といってよいでしょう。先ほど申しましたように、金は通貨として一面を持っておりますので、例えばリーマン・ショックのように金融システムそのものに対する信認が低下しますと、最後の逃避先として資金が流れ込む傾向にあるわけです。一方で例えば金は第二次オイルショックがあった1980年以降、今回の相場上昇が始まる2003年に至るまで、概ね1オンス=200ドル台後半〜400ドル台前半のレンジで行ったり来たりの動きに終始しましたが、この間は大きな意味で比較的世界の金融システムは安定していたといえるでしょう。

金は、世界の金融システムの安定性と密接にリンクして値動きすると考えておくべきではないでしょうか。そういう視点で世界の金融システムを眺めてみますと、確かにリーマン・ショック後の金融システム崩壊を回避することに成功しましたが、2009年以降は欧州の債務不安が広がりました。見方を変えれば民間の金融機関が抱えていた巨額の債務が、単に政府部門に移転されただけということもいえるでしょう。

例えば日本の1998年から2003年に至る状況を振り返ってみますと、景気の回復期には一時的に金融不安は後退しますが、金融機関の中で根雪のようにわだかまった不良債権問題は決して解消することなく、2000年に始まる景気後退のなかで再び顕在化することになったわけです。欧米の金融機関の場合、日本勢と異なりその高い収益力によって、比較的短期のうちに不良債権を償却できる可能性は十分あるでしょう。

一方で世界は「先進国の成長鈍化と新興国の高成長」という新たな不安定要因を抱え込んだともいえ、次に訪れるであろう景気後退の中で、日本の2003年型の金融不安が再燃する可能性も捨てきれません。その意味ではまだ金の出番はあると考えておいてよいのではないでしょうか。


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