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危ない仕組み債

みなさんこんにちは。

ご注意:今回のメルマガは、特に前半は難解だと思います、無理に理解しようとしなくてOKです、
    難解な点が今回のメルマガのテーマでもありますので・・・。

たしか10年ほど前にも僕は仕組み債の話をこのメルマガで書いた記憶があります。

仕組み債といってもさまざまな運用手法がありますが、
その典型的な手法は「他社株連動債」と呼ばれる商品です。

その仕組みはこうです。

特定の個別株(かりにA社株)の値動きを参照し、
たとえばA社の株価が一定の価格(これを「ノックイン判定水準」と呼びます)以下になると、
元本では償還されず、かわって満期時点のA社株に連動する形で償還されます。

ノックイン判定基準がスタート時点のA株の70%程度に設定された場合が多いのですが、
いったんA社株が70%まで下がると、A社株は満期時点でも大幅に値下がりしているケースが多く、
この場合、投資家は大きく元本を割れた金額を満期時に受け取ることになります。

ノックイン価格以下にならない場合は10%ほどの利回りがありますが、
それはA社株が一度もノックイン価格である70%以下にならない場合です。

また逆に、A社株が事前に設定した金額(「償還判定水準」注)を超えると、
額面で早期償還されてしまうことになります。

注)償還判定基準は開始時点のA社株×105%など、低いハードルに
  設定されることが多いです。

つまり儲けは限定的である一方で、
最悪の場合、購入者は投資したおカネすべてを失うということです。

この商品のウリである「最初に提示された期間にわたり10%の利息がもらえ、
なおかつ投資した元本でおカネを受け取れる」のは、
とちゅうA株が70%以下になることなく、
かつA社株が105%以上にならないという条件を満たした場合に限ります。

一応ここまで仕組み債の仕組みの一つをわかりやすく説明してきたつもりですが、
ほとんどの方は理解できないと思います。

それは皆さんの金融リテラシーが低いからではありません。

全く関係のない株(「参照株」)の運用成績に加え、
オプションや先物といった金融派生商品(「デリバティブ」)を組み込んだ商品で、
その仕組みを正確に理解するのは難しいです。

昨年(2022年)金融庁のある審議官は、
「どの程度リスクがあるか販売する本人も分かっていない可能性」があると
指摘しています。

注)金融庁の屋敷審議官の発言、ブルームバーグの取材に対する回答より抜粋

そもそもこのメルマガで説明しきれないという時点で
相当複雑な金融商品であることを意味しており、
とてもではありませんが金融の知識が乏しい方が買うような商品ではありません。

仕組みが複雑であるということはコスト構造もわかりづらく、
いいかえれば売り手にとって儲かる商品です。

少なくとも買い手ではなく、
売り手にとってかなり「おいしい」商品だと考えておいて間違いないでしょう。

例えば金融庁の調査では、『2019年4月に販売した856銘柄をサンプルとして
調査したところ、わずか3か月で元本の8割を失った例もあった』とのことですし、
同じく金融庁の調査では、「他社株連動債」の『実質コストは、
投資元本に対して5-6%と推定されるが、満期が約0.6年と短く、
実質コストを年率換算すると8-10%に達する』と推定しています(注)。

注)『 』内は2022年9月21日付ブルームバーグのサイトより引用

金融庁はこの仕組み債に対し、監視体制を強める見通しですし、
それを受けすでに銀行や証券会社も、たとえば公募を停止したり、
私募を一部停止したりしています。

さらに証券業協会は自主規制を発表しましたが、
それでも十分とは言えません。

このメルマガの冒頭でお話ししたように、仕組み債はずっと前からあり、
過去何度も以下の点が問題になってきました。

・大きすぎるコスト
・不明瞭なコスト構造
・高いリスク
・問題ある販売方法

つまり想定できるリターンに比べ高いリスクがあるうえに、
商品の仕組みやコストがわかりづらく、
なおかつ高度な知識が要求される金融商品だといえるでしょう。

問題になる都度証券会社や銀行は販売を縮小してきましたが、
ほとぼりが冷めればまた元通りの繰り返しです、
銀行にしても証券会社にしても、
これだけ儲かる商品を捨てることができなかったのでしょう。

すでに先月証券業協会は仕組み債に対する自主規制を発表しましたが、
その内容は

・販売の対象を一定の投資経験のある顧客に限定する
・損失リスクがあることを気づきやすい場所に記載する
・販売する金融機関の代表者が、販売の過程が適切だったか検証する

(注)NHKのサイトより抜粋

にとどまります、
公募の停止や組成側のコスト、販売会社のコストなど
具体的な数字に関する開示は求めていないように見え、
これを見る限りかなり緩い自主規制だといってよいでしょう。

全国銀行協会も何らかの自主規制を発表すると思いますが、
うえの証券業協会の自主規制を見る限り、
実効性のある規制が打ち出されるとは思えません。

どうやら私たち一人一人が「仕組み債の仕組み」に関して
正しい知識を身に着けるしかないようですし、
もし理解できないなら投資すべきではないと思います。

 

では今回はこのへんで。

(2023年3月17日)




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